「ティエリアはどう思う? こういうことをするのは嫌いか?」
「…わからない。ただ、自分が人間であるのだと、君とは違う個体であるのだと確認できることは、何だかとても安心できる気がする」
彼の指に重ねていた自らの手を、刹那はゆっくりとティエリアの頬へとふれあわせる。汗でじんわりと湿っているそこに、彼の指はぺたりと吸いつくようにあわさった。けれどやはり、そこから溶けだして融合してしまうようなことはない。
# 溶ける夜 - なぎこ
唇を離しても、ティエリアは表情をかえぬままでいた。椅子に座っていて、資料を手に持ち、きちんと制服を着用していて、刹那のことを見つめている。それは彼らが口づけをかわす前となんらかわっていないのだった。
# Kus - なぎこ
「…くすぐったい」
足にかかるティエリアのやわらかな髪に、刹那は本当にくすぐったそうに表情をかすかに歪めて上体を置きあがらせた。皺の寄ったシーツの上をすべる手の音に耳を傾けながらティエリアは目を閉じる。
# くるぶし - 浜田
「ずいぶん遠くまで歩いてきたな」
それがふたりの歩いた距離なのか、それ以外のことなのか、ティエリアはきちんと説明をしなかった。ただ、四年前より格段とやわらかくなった表情をのぞかせながら、刹那に話しかけている。
「でも、まだ戻ることもできる距離だし、進むこともできる距離だ」
# 花をあげましょう - なぎこ
「去年も来たな。一昨年も」
その他よりも少し大きな桜の木の前に立ち止まって、枝にいっぱいについた花を見上げながらティエリアが言った。ああ、と刹那も返事をする。
「気がついたときにはもう、春のそばに君がいた」
何年のあいだそうしてきただろう、と二人は考えるふりをするけれど、でも本当は答えなんてわかりきっているのだった。そして、それぞれに相手が単なる、仲の良い幼馴染、でなくなったのは一体いつからだったのか、ということも。
# 桜の庭(現代パラレル幼馴染BL) - 浜田
隣に座っているのはティエリアだけれど、それはティエリアではないのだった。車内で今回のミッション内容の最終確認をしている彼を、刹那はバックミラー越しに見つめる。胸元の大きくひらいたドレス。肌の白さを際立たせる長い髪。ふくよかなからだつきや唇にぬられた赤い紅。それらすべてはティエリアを称賛し、彼を美しく引き立てている。
「運転に集中しろ」
# 異世界(8話) - なぎこ
「いや、一緒にいく」
どうせ家に帰ってもひとりだからな、とティエリアはあっさりと付け足した。そういうことをさらりと言ってのけてしまう少女のその頭に彼は手をのせ、ぽんぽんと軽くたたく。彼女のプライドに傷をつけない程度に、けれど慎重に慰めたあとは、肩にかけていたバックをおろしてカゴの中に入れ、その上に手渡されていたティエリアの鞄を当然のように置いた。
「帰ろうか」
「帰ろう」
# 世界(学パロ・ティエリア女子) - なぎこ